特発性大腿骨頭壊死症とは
特発性大腿骨頭壊死症(osteonecrosis of the femoral head: ONFH)は、主に若年から壮年期に発症し、骨頭内の血流が遮断されて骨が壊死する疾患です。
特発性大腿骨頭壊死症は、特に男性に多い疾患です。日本国内での男女比は 1.2~2.1:1で、男性に多く見られます。
発症年齢の分布をみると、男性では 30~59歳に多く発症する傾向があり、女性も幅広い年齢層でみられるものの、調査によってその分布にばらつきがあります。
日本の有病率は 人口10万人あたり18.2(0.0182%) で、年間発症率は 1.5~3.7(0.0015~0.0037%) とされています。
発症の危険因子
特発性大腿骨頭壊死症の発症リスクには、以下の要因が挙げられます。
主な危険因子:
- ステロイドの全身投与
- 過度な飲酒
- 喫煙
その他の危険因子:
- 若年層
- 男性
- サイトクローム P450 3A の活性低下
- 全身性エリテマトーデスなどの基礎疾患
さらに、疾患感受性という個人の遺伝的要因も関与していると考えられています。これらの要因が複合的に作用することで、骨頭内に虚血が発生し、壊死が引き起こされるのです。
診断基準
日本では、厚生労働省特発性大腿骨頭壊死症調査研究班が定めた「JIC診断基準」を基に診断が行われます。診断には以下の条件が必要です。
診断基準の主な項目:
X線所見:
骨頭圧潰や「crescent sign」と呼ばれる骨頭軟骨下骨折線像を確認。
MRIやシンチグラム:
骨頭内の異常な信号域や「cold in hot」像を確認。
骨生検:
壊死した骨組織が検出されること。 これらの項目のうち、2つ以上を満たす場合に確定診断とされます。
除外診断:
他の疾患(外傷性大腿骨頭壊死症、大腿骨頭すべり症、放射線照射後の壊死など)が原因でないことを確認することが重要です。
病期と壊死域の分類
特発性大腿骨頭壊死症は病期(stage)と壊死域の広がり(type)によって分類されます。
病期(stage)分類:
- Stage 1:X線では異常なし、MRIやシンチグラムで異常あり。
- Stage 2:X線で帯状硬化像が見られるが、骨頭圧潰はない。
- Stage 3:骨頭が圧潰。関節裂隙は保たれる。
o 3A:圧潰が3mm未満
o 3B:圧潰が3mm以上 - Stage 4:関節症性変化が出現。
壊死域(type)分類:
- Type A:壊死が非荷重部に限定。
- Type B:壊死が寛骨臼荷重面の内側1/3以上2/3未満。
- Type C:壊死が荷重面の内側2/3以上。 これらの分類は治療方針や予後の見通しを立てる上で重要です。
治療法
特発性大腿骨頭壊死症の治療は、保存療法と手術療法に分けられます。
保存療法:
免荷療法:松葉杖やロフストランド杖を使用し、股関節への負荷を軽減する。
薬物療法:
ビスホスホネート製剤(例:アレンドロネート)で骨頭圧潰や痛みの進行を抑制。
物理療法:
高圧酸素療法や体外衝撃波療法などが報告されていますが、エビデンスレベルは高くありません。
手術療法:
- 骨切り術(大腿骨内反骨切り術、大腿骨頭回転骨切り術)
- 骨移植術(各種骨移植術)
- 人工関節置換術(人工骨頭挿入術、人工股関節全置換術)
保存療法で改善しない場合や、進行が見られる場合には手術が選択されます。