股関節の痛み

股関節の痛みとは

股関節の痛みとは

股関節疾患の治療では、股関節をできる限り元の状態まで回復させることを目標にしています。股関節疾患の中には、股関節周囲炎や一過性大腿骨頭萎縮症などのような、安静や薬物療法、リハビリテーションなどでほぼ元の状態まで改善できる疾患もあります。しかし、大腿骨頭壊死症や関節リウマチ、そして日本人女性に多い臼蓋形成不全による変形性関節症などの疾患の場合は、手術を余儀なくされるケースも少なくありません。また、近年は高齢化社会により、加齢に伴って軟骨が擦り減ったり骨粗鬆症で骨が押し潰されたりすることで、手術を受ける高齢者も増加傾向にあります。

股関節の痛みを伴う疾患

変形性股関節症

変形性股関節症とは

骨盤(臼蓋)と大腿骨の軟骨がすり減った結果、骨同士が接触して痛み、可動域制限、歩行障害が出現する疾患です。はじめは、鼡径部の違和感や痛みで出現することが多く、進行するとともに関節が固くなってきます。あぐらをかくことがつらい、足の爪切りがしんどい、靴下を履くのが辛くなってきたなどが典型的な症状です。さらに増悪すると足の長さが左右で異なってきて、歩きづらさが出現していき、日常生活が困難になっていきます。

変形性股関節症の原因は

変形性股関節症は原発性(一次性)変形性股関節症と続発性(二次性)変形性股関節症に大きく分けられます。明らかな原因が指摘できないものが原発性変形性股関節症と言われます。日本人の特に女性に多いのが続発性変形性股関節症です。続発性変形性股関節症は臼蓋形成不全やFAI(大腿骨寛骨臼インピンジメント症候群)大腿骨頭壊死症、外傷後、免疫疾患、代謝性疾患など変形性関節症となる原因が明らかなものです。日本人女性は臼蓋形成不全の確率が欧米より高く、続発性変形性関節症になる可能性が高いと言われています。

変形性股関節症の診断方法

診断には患者さんの病歴・年齢・診察所見・画像検査などの情報で判断していきます。画像検査はまずレントゲン撮影が一般的で軟骨のすり減りの程度や関節の変形の程度を評価していきます。股関節痛の症状は腰から膝周囲まで広範囲に出現することもあるため、腰椎由来の症状の可能性も考慮し腰も含めて診察、診断していくこともあります。レントゲンでは変形性股関節症を認めるものの本当に股関節が痛いかどうかを判断するには股関節のブロック注射が有効です。手術など侵襲的な手技を行う前にはブロック注射による確定診断を行った上で治療を進めていくこともあります。

変形性股関節症の治療方法

治療は軟骨のすり減りの程度、骨の変形の程度、患者さんの年齢や生活のレベルを総合的に判断して決定していきます。
基本的には軟骨が残存している患者さんは保存的加療(手術以外の方法)の適応になります。保存的治療に効果がない、変形の程度が強い方は手術の適応になる場合があります。

などが有効な治療方法となってきます。保存的治療に効果を認めない方は手術加療の適応となります。

手術加療
  • 骨切り術
    変形の程度が軽く、若年で治療期間が取れる場合の患者さんに適応があります。
  • 人工股関節置換術
    変形の程度が強く、日常生活動作自体が困難になってきた患者さんに適応があります。

大腿骨頭壊死症

大腿骨頭の一部が壊死し、骨頭がへこんで変形してしまう疾患です。悪化すると骨頭がますます変形し、変形性関節症を引き起こしやすい状態になります。
原因の特定できない特発性大腿骨頭壊死症のほか、ステロイド薬を大量に使用した方や、お酒をたくさん飲むと言った習慣が原因の一つだと言われています。

股関節唇損傷

股関節に付着している「関節唇(かんせつしん)」という線維軟骨が、損傷することで起こる疾患です。
スポーツで股関節を激しく動かす(脚を広げる、関節を曲げるなど)ことをきっかけに発症する方が多いのですが、稀に、元々骨盤と臼蓋がスムーズに噛み合わない「臼蓋形成不全症」によって発症するケースもあります。初期は歩行時の違和感しか現れませんが、進行するにつれて、股関節を曲げる動き(階段を昇る、長時間イスに座り続ける、しゃがむなど)を行う時に痛みを感じるようになります。
スポーツをされる方の場合、ジャンプ、ダッシュ、ひねる、スタート、ストップなどの動作を行うと症状がひどくなり、消炎鎮痛薬を服用したりリハビリテーションを約3カ月間行ったりする保存療法で治療します。

股関節唇損傷こかんせつしんそんしょう”について

病院でレントゲンを撮って異常なしと言われ、湿布や痛み止めだけ処方されても股関節痛が引かず、痛みで困っていらっしゃる人は、もしかすると「股関節唇(こかんせつしん)損傷」かもしれません。軟骨がすり減っている状態である変形性股関節症はレントゲンで診断がつきますが、股関節唇だけが損傷している状態ではレントゲンでは異常が見つかりません。
これまで原因不明とされた股関節痛の中に含まれている可能性がある、股関節唇損傷について説明します。

股関節唇とは?

股関節の中に、太ももの骨(大腿骨:だいたいこつ)と受け皿の骨(寛骨臼:かんこつきゅう)があり、骨と骨が直接ぶつからないように、それぞれ軟骨でコーティングされています。受け皿の骨の軟骨の一部分が少し飛び出ている部分を「股関節唇」といいます。股関節の受け皿の骨のまわりを縁取っていて、タコの吸盤のように太ももの骨を取り囲んでいる部分のことをさします(図の赤色の部分)。
股関節唇は、タコの吸盤のように太ももの骨に吸い付くように働き、太ももの骨が抜けないように働くことで、股関節唇は股関節の吸着の役割をしています。ですので、股関節唇が損傷すると、股関節の吸着の役割が無くなってしまうので、股関節が抜ける、ぐらつく、はまっていないなどの症状が出ることがあります。股関節唇損傷が生じると太ももの骨が安定しなくなり、次第に軟骨が破壊され、軟骨がすり減って変形性股関節症になってしまうと考えられています。
また、体重がかかっている受け皿の骨の軟骨の中には神経がないのですが、そこから出っ張った股関節唇には神経が走っているので、股関節唇が痛むと神経が刺激されて痛みや違和感が生じます。

股関節唇損傷

股関節唇損傷の症状

股関節唇が損傷を受けた場合は、下記のような様々な症状が出ることがあります。

  • 太ももを動かすような動作で痛みが走ったり違和感が生じたりする
    具体的には、股関節を曲げたり、ひねったりするような動作(あぐらをかく、靴下を履く、爪を切る、椅子や床から立ち上がる、車や自転車の乗り降り、脚を組む等)や、長時間椅子に坐っている状態、寝返りの際など
  • 引っかかり感
  • 股関節の奥に何かが挟まっている感じ
  • 股関節を動かせなくなる(ロッキング)
  • 股関節がぐらぐらする
  • 抜けるような感じ
  • 抜けそうで恐い
  • うまく股関節に“はまっていない”

また炎症がひどい方は

  • 股関節に電気が走るような激痛
  • 夜寝ている際や動かなくてもジンジンするような鈍痛を生じる

上記に当てはまる場合は、股関節唇損傷の可能性があります。

股関節唇損傷

股関節唇損傷の診断

股関節唇損傷を診断するためには、病歴と専門的な診察所見に加えて、股関節唇に特化した特殊な撮影方法でのMRI検査が必要です。一概にMRI撮影といっても様々な撮影方法があり、股関節唇は小さい組織なので、股関節唇に特化したMRI撮影をしないと異常がみつけられないことがあります。別の整形外科に行ってレントゲンやMRIを撮っても異常が無いと言われてお越しくださった方には、当院ではもう少し詳しくレントゲンを撮らせてもらい、MRI撮影をさせていただくことで、股関節唇損傷と診断がつく方がいらっしゃいます。
股関節唇損傷が生じてしまった原因として、もともと股関節に形の異常があることも多いため、股関節の形をレントゲン検査で詳しく検査させていただきます。例えば、股関節の受け皿の骨が浅い「寛骨臼(かんこつきゅう)形成不全」や、股関節を曲げたときに骨同士がぶつかる 「FAI:大腿骨寛骨臼(股関節)インピンジメント」などです。

股関節内注射

当院では、診断および治療目的にとても細い針と超音波(エコー)を用いて、股関節の中に注射をさせていただくことが多いです。
股関節唇損傷の痛みが出る部位は股関節前面が一番多いですが、股関節外側や、臀部(おしり)、太もも、膝のまわり、腰痛、下腹部などに痛みが出ることもあり、ときに診断が難しい場合があります。腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニア、仙腸関節障害、鼡径部痛症候群(グロインペイン症候群)などと言われた診断の中にも、股関節唇損傷がかくれていたり、影響を与えたりすることがあります。股関節唇損傷が痛みの原因と診断するためには、股関節への痛み止め(局所麻酔薬)の注射がどうしても必要なことが多いです。当院では、とても細い針と超音波を用いて股関節内に安全で確実に注射を行い、注射直後に痛みが改善する場合は、痛みの原因は股関節唇損傷であると確定診断しています。

股関節唇損傷への治療方法(保存療法)

股関節唇損傷と診断された場合、まず保存療法(手術以外の方法)を実践します。 股関節唇損傷自体が自然に治ることはほぼ無いのですが、約80%の方は保存療法で痛みが改善します。

日常生活では、下記の点に気をつけてください。

  • 股関節が深く曲がるような動作を避ける
  • あぐらをかくように股関節を開く動作を避ける
  • 深いソファや床に座らないようにして、洋室での生活を心がける
  • 車の乗り降りや、椅子や床から立ち上がるときなどに手を添える

できるだけ関節唇への負担を与えないような股関節の動かし方、身体の使い方を理解し、日々の生活の中から実践することが痛みの軽減、予防に繋がります。
また、当院へ週1回程度の通院可能な方は、是非外来リハビリテーションを行いましょう。股関節の周りや体幹の筋力トレーニング、骨盤の柔軟性を得ることで、股関節唇の痛みの軽減にとても役立ちます。また、股関節唇損傷があることで、ご自身が股関節をうまく使いこなすことが出来なくなってしまう状態(メンテナンス不良:機能障害)になっていることが多いです。リハビリを行うことで股関節がうまく使えるようになるようにサポートします。
そして、股関節内の炎症を軽減する目的で股関節内にステロイド注射やヒアルロン酸注射をすることもあります。注射をすることで、リハビリテーションの成果がより上がることがあります。
このような日常生活での工夫やリハビリ、注射で総合的に治療を行うことで、股関節唇の痛みが改善する方が少なくありませんが、数カ月たっても改善しない場合は、一歩進んだ治療として手術を考えた方がよいかもしれません。

股関節唇損傷への手術療法

股関節唇損傷への手術治療の1つに股関節の内視鏡手術(股関節鏡視下術)があります。 股関節の外側に小さい穴を2~3カ所作り、内視鏡を入れ、傷んだ(または切れた)股関節唇を縫い合わせる方法です (股関節鏡視下股関節唇形成術)。
股関節の内視鏡手術(股関節鏡手術)は比較的高度な手術の技量が必要とされ、国内ではまだあまり普及していないのが実情ですが、当院では国内外で十分な経験と実績を積んだ、国内では数少ない股関節鏡の専門医であります、日本股関節学会の股関節鏡技術認定取得医が手術を担当します。

大腿骨寛骨臼インピンジメント(femoroacetabular impingement:FAI)

股関節の寛骨臼(かんこつきゅう)や大腿骨頭に骨が出っ張っている部分があると、「しゃがむ」などの動作を行った時、骨頭と寛骨臼が何度も衝突を繰り返してしまいます。大腿骨寛骨臼インピンジメント(以下FAI)とは、寛骨臼の周りに付着している関節唇や関節軟骨が痛んだ結果、股関節が痛くなる疾患です。FAIの確定診断をつけるには、レントゲンやMRI, CTなどの詳細な画像検査にて、余分な骨が出ている箇所や関節唇の断裂を見つける必要があります。股関節痛があるのにレントゲンを行っても異常が発見できず、原因が特定できなかった以前の症例の中には、FAIや関節唇の断裂が原因だと疑われるものもあります。近年では股関節鏡手術の普及が進んだため、関節唇の縫合や骨の出っ張りを削る治療ができるようになりました。

“FAI (Femoroacetabular impingement)”とは?

FAIとは、FemoroAcetabular Impingement の略語で、femoro=大腿骨 acetabular=寛骨臼 impingement=衝突という意味で、日本語では大腿骨寛骨臼インピンジメント(股関節インピンジメント)と呼んでいます。股関節を動かしたときの股関節の大腿骨(太ももの骨)側と寛骨臼側(受け皿の骨)の骨と骨のぶつかりを意味します。
FAIによって股関節痛や股関節唇損傷、軟骨損傷が起こることがわかってきました。

FAI

図のような太ももの骨のでっぱり(Cam(カム)変形)は、遺伝が原因であったり、成長期に活発なスポーツを行っていたことが原因であったりと言われています。

FAIは変形性股関節の原因の1つである

また、Cam変形があることで、股関節唇損傷が生じ、最終的には変形性股関節症(軟骨のすり減り)まで至る、以下のようなメカニズムがわかってきました。2,3

  1. 股関節を曲げたり、ひねったりする際に、このでっぱった骨(Cam変形)と受け皿の骨が何度もぶつかり合う
  2. 受け皿の骨と太ももの骨の間に存在する股関節唇が傷つく(股関節唇損傷)
  3. 股関節唇損傷が生じたために、痛みや不安定性(ぐらつき)が生じる
  4. Cam変形が関節唇のみならず、受け皿の軟骨までも削り、その軟骨がはがれてしまう
  5. 軟骨が傷んで変形性股関節症(軟骨のすり減り)に至る
FAI

さらに、このCam変形(太ももの骨の出っ張り)が大きい人は、Cam変形が全くない人と比較すると、変形性股関節症(軟骨のすり減り)になる可能性が約10倍高いと言われています。3*
重要なことは、このCam変形(太ももの骨の出っ張り)は軽度な異常ですので、通常の病院でのレントゲン検査では見逃す可能性があることです。
股関節が痛くて病院に行き、「異常なし」と言われた患者さんの中には、当院ではじめてDunn view (ダンビュー)といわれる特殊な撮影方法でのレントゲン検査で、FAIと診断がつくことがあります。4*
別の病院でうまく診断されていない原因の1つに、FAIは2003年から提唱された比較的新しい概念であり2*、一般の整形外科医がそこまでFAIに詳しく知らないという点が考えられます。Dunn view (ダンビュー)といわれる方法4*で詳しくレントゲン検査を行ったり、詳しくMRI検査を行ったりすれば、診断がつくことがほとんどです。
お近くの整形外科で「異常なし」と言われたとしても、股関節痛が続く場合は、是非股関節専門外来を受診し、精密検査をされることを強くお勧めします。

FAIへの治療方法

股関節唇損傷と同様に、まず保存療法(手術以外の方法)を実践します。 主にはリハビリ、股関節の中への注射、飲み薬です。FAIのCam変形(太ももの骨のでっぱり)自体が自然に治ることは無いのですが、約80%の方は保存療法で痛みが改善します。
保存療法でよくならない場合は、一歩進んだ治療として手術(股関節鏡手術)を考えます。股関節鏡手術(股関節鏡視下手術)では、股関節の外側に小さい穴を2~3カ所作り、内視鏡を入れ、損傷した股関節唇を修復し、かつ同時にCam変形(太ももの骨)をけずる手術を行います。手術の詳細は股関節鏡のページをご覧ください。

FAI
*参考文献

1. Pettit M, et al. Osteoarthritis Cartilage. 2021. How does the cam morphology develop in athletes? A systematic review and meta-analysis.
2. Ganz R, et al. Clin Orthop Relat Res 2003. Femoroacetabular impingement: a cause for osteoarthritis of the hip.
3. Agricola R, et al. Nat Rev Rheumatol 2013. Cam impingement of the hip: a risk factor for hip osteoarthritis.
4. Saito M, et al. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc 2017. Correlation of alpha angle between various radiographic projections and radial magnetic resonance imaging for cam deformity in femoral head-neck junction.

先天性股関節脱臼/臼蓋形成不全

股関節の臼蓋が生まれつき浅く、関節が深くはまらない疾患です。臼蓋が生まれつき浅いケースもありますが、赤ちゃんの足を固定させる育児方法によっても起こります。
臼蓋がかなり浅い状態になると、骨頭が臼蓋にはまらずに脱臼を起こします。一方、関節が浅いだけで脱臼まで至っていない状態でも、関節の接触面積が少なくなるため、小さな面積に体重がかかってしまいます。それにより軟骨が擦り減りやすくなり、変形性股関節症を引き起こすこともあります。

関節リウマチ

関節に慢性的な炎症が起こり、少しずつ関節が破壊されてしまう疾患です。主に、手指・足の指、手・足・膝関節などに炎症が起こりやすいとされています。しかし、股関節に炎症が起こる頻度はあまりありません。
リウマチによる関節炎を治すには、薬物療法で炎症をコントロールする必要があります。薬物療法を続けても炎症が落ち着かない場合や、関節の破壊が進んで痛みが解消できない場合は、手術を選択します。股関節に起こった場合は、人工関節に置き換える手術が適応とされます。また、股関節にリウマチが起こる場合、大腿骨頭が骨盤の内側へ食い込むような独特な変形がみられます。この変形が重くなると、人工関節に置き換えるのも非常に困難になります。リウマチによる痛みの強さ・骨が破壊される速度・変形の度合いを総合的に判断してから手術を決定しますが、重度の変形が起こっている場合は、少しでも早く手術を行うのが望ましいでしょう。リウマチの手術を実施する際は、整形外科だけでなく、内科や麻酔科、リハビリテーション・看護・介護などの連携が大切になります。

東京整形外科ひざ・こかんせつクリニック
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