変形性膝関節症とは
今回key point
変形性膝関節症の主な原因は関節軟骨の老化による摩耗ですが、肥満や遺伝的素因も関与する |
X線写真で膝OAに典型的な所見(関節裂隙狭小化、骨棘形成、軟骨下骨硬化など)を確認できる |
治療は保存療法(リハビリ・関節内注射・投薬)・手術療法(骨切り術・人工関節)が主に行われる |
1. 疫学(日本における有病率・患者数)
変形性膝関節症(膝OA)とは、膝関節の軟骨が加齢や酷使で擦り減り関節が変形して痛みを生じる病気です。
日本の中高年に非常に多くみられ、50歳以上では約1000万人が膝OAによる膝痛を抱えていると推計されます。
整形外科疾患の中で腰痛に次いで2番目に患者数が多い疾患です。
レントゲン調査では40歳以上の約半数で膝関節に変形所見がみられ、この推計から国内の膝OA患者数は約2530万人にのぼると報告されています。
女性に多く、高齢化に伴い患者数は今後さらに増加すると見込まれています。
2. 病態
変形性膝関節症の主な原因は関節軟骨の老化による摩耗ですが、肥満や遺伝的素因も関与します。
また膝の骨折や靱帯・半月板損傷、化膿性関節炎などの後遺症として発症する場合もあります。
関節軟骨は通常、水分を含んだスポンジのようになっており関節が受ける衝撃を吸収し、骨と骨の直接の摩擦を防いでいます。加齢により関節軟骨が弾力性を失い、長年の酷使で擦り減って関節が変形していきます。関節軟骨の摩耗が進むと関節を包む滑膜(かつまく)が炎症を起こし(滑膜炎)、痛みと変性がさらに悪化します。関節周囲の骨は刺激で増殖し、骨の縁に骨棘(こつきょく:とげ状の骨)が形成されます。
軟骨が減ると骨同士の隙間(関節裂隙)が狭まり、レントゲンで関節裂隙狭小化や骨硬化、骨棘形成が確認できます。軟骨の摩耗が進行すると関節内に炎症性の関節液が増えて膝に水が溜まり、腫れと疼痛が増悪します。
さらに進行した例では、MRIで骨の中のむくみ(骨髄浮腫)や微細な骨折(骨梁の損傷)が生じていることもあり、こうした骨の変化も痛みに関与します。なお、軟骨自体には神経がないため痛みは軟骨下骨や滑膜の炎症によって生じます。
3. 症状(初期・中期・末期の特徴)
変形性膝関節症の主な症状は膝の痛みと関節の腫れ(関節水腫)です。症状は徐々に進行し、初期・中期・末期でそれぞれ特徴が異なります。
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初期:
朝起きた直後や椅子から立ち上がる際に膝に違和感や軽い痛みを感じます。動き始めにこわばりがありますが、しばらく動くと痛みは消失します。 -
中期:
膝の痛みが強くなり、長引くようになります。正座や階段の上り下り(特に下り)がつらくなり、膝を深く曲げ伸ばしが行いにくくなります。炎症で膝が腫れて水が溜まり、関節の変形も進行します。 -
末期:
安静時や夜間にも膝が痛み、関節の変形が著明となって膝が完全に伸びなくなり、歩行も困難です。痛みにより外出や日常動作が大きく制限され、生活に支障を来たします。
4. 診断(X線検査、MRI、臨床診断など)
問診・診察で膝の圧痛、可動域、腫れやO脚・X脚変形の有無を調べ、レントゲン写真で膝OAに典型的な所見(関節裂隙狭小化、骨棘形成、軟骨下骨硬化など)を確認します。
多くの場合これで診断可能ですが、必要に応じてMRI検査を行い、軟骨や半月板の損傷、骨内部の変化(骨髄浮腫や骨嚢胞(こつのうほう)など)を詳しく評価します。
他の関節リウマチなどとの鑑別が必要な場合は血液検査も実施されます。
5. 保存療法(リハビリ・装具・体重管理・薬物療法)
まずは手術を行わない保存的治療で痛みの軽減と関節機能の維持を図ります。
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運動療法(リハビリ):
膝周囲の筋力強化、特に大腿四頭筋の強化は、関節の安定性を高め、痛みの軽減につながります。
また、膝の変形が進行すると、「膝がまっすぐ伸びない」「深く曲がらない」といった関節可動域の制限が生じ、これを放置すると歩行や階段昇降に支障をきたすようになります。そのため、関節可動域訓練も重要です。痛みが強い時期は無理をせず、症状が落ち着いてから筋力トレーニングやストレッチを行うことが推奨されます。
実際には、膝を伸ばすための筋力トレーニングや、膝の動きを保つための関節可動域訓練を、痛みの出ない範囲で無理なく継続することが大切です。 -
装具の利用:
膝への負荷を軽減するため、膝サポーターや靴の中敷き(外側ウェッジインソール)、必要に応じ膝装具や杖も活用します。
外側楔状インソールはO脚をわずかに矯正して膝内側への荷重を減らします。
杖は歩行時の体重負荷を分散して痛みを軽減します。 -
体重管理:
肥満がある場合は減量も重要です。体重を減らすことで膝への荷重が軽くなり、症状の改善が期待できます。 -
薬物療法:
痛みや炎症を抑える対症療法です。NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)などの内服鎮痛薬や湿布・塗り薬で痛みを和らげます。
症状に応じてヒアルロン酸を膝関節内に注射すると潤滑が改善し痛みの軽減に有効で、多くの患者さんに効果があります(通常週1回の注射を5週連続で行います)。
炎症が強い場合はステロイド剤の関節注射を行うこともありますが、副作用防止のため繰り返しは控えます。ただしNSAIDsは長期使用で胃腸障害などの副作用が出る恐れもあるため、医師の指示に従い必要な期間のみ服用します。
※これらの保存療法で十分な改善が得られない場合、手術療法が検討されます。
6. 手術療法
膝関節の変形が高度で痛みが強く、保存療法で効果が不十分な場合には手術が検討されます。膝OAの主な手術法には関節鏡視下手術、骨切り術、人工膝関節置換術があります。
関節鏡視下手術(関節鏡デブリードマン):
膝に内視鏡を挿入して関節内を掃除する手術です。
変形が比較的軽度で半月板損傷や滑膜炎が痛みの原因の場合に行われ、傷んだ半月板や増殖した滑膜を部分切除します。
侵襲が小さく回復も早い手術で、約8割の症例で症状の改善がみられます。
軟骨の損傷が軽度であれば、骨に小孔を開けて軟骨の再生を促す処置(ドリリング)を追加することもあります。ただし軟骨の摩耗が強い進行例では効果は限定的です。
高位脛骨骨切り術(HTO):
脛骨の上部をくさび状に切り、O脚を矯正して膝の内側に集中する荷重を外側へ分散させる手術です。比較的若年(60歳未満)で膝の内側だけが高度にすり減っている場合に適しており、適切な症例では痛みの改善が得られます。
内側の傷んだ軟骨面を残すため、年数経過とともに痛みが再発し将来的に人工関節が必要となる可能性があります。
人工関節ほど痛みの除去効果は高くありませんが、自分の関節を温存できるため術後も正座が可能などの利点があります。
人工膝関節置換術:
膝関節の破壊が著しく、痛みで歩行困難な末期段階の患者さんに対する治療法です。
大腿骨と脛骨の摩耗した関節面を削り、金属とプラスチック製の人工関節(全置換TKAまたは部分置換UKA)を骨に固定します。術後は痛みが大幅に軽減し、1週間以内に歩行訓練を開始し、約1~2週間で退院可能です。
人工関節の耐久性は向上しており、術後10年で約95%、20年で90%以上の人工膝が良好に機能するとの報告があります。
合併症リスクは低いものの、感染症や血栓、人工関節と骨のゆるみ等が起こる可能性があります。
そうした場合には人工関節の入れ替え(再置換術)で対応します。
人工関節の欠点として、膝の可動域がやや制限され正座ができなくなることがあります。
高齢の方でも健康状態が許せば受けることができます。痛みと機能の改善により患者さんの満足度も非常に高い手術です。
まとめ:
膝OAは身近な病気ですが、適切な治療と自己管理によって痛みを軽減し日常生活を維持できます。
症状が軽いうちからの予防やリハビリで進行を遅らせることができ、進行した場合も保存療法に加えて手術という有効な選択肢があります。
また、手術後もリハビリを継続して筋力を維持することで、一層円滑な日常動作が期待できます。
膝の痛みは我慢せず、是非当院への受診をお勧めいたします。
当院HPの人工膝関節置換術の説明についてもぜひご覧ください。