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禁止肢位のない人工股関節置換術 〜脱臼について〜

local_offer副院長ブログ

こんにちは、副院長の佐藤です。
人工股関節置換術の歴史は、合併症との戦いの歴史でもあります。その中でも、今回は「脱臼」についてお話ししたいと思います。

絶対に脱臼しない人工股関節はありえない

まず大前提として、通常の人工股関節全置換術において 「絶対に脱臼しない人工股関節」 というものは存在しません。
そもそも人工関節を入れていない健康な股関節でも、稀に脱臼が起こることがあります。

では、なぜ脱臼が発生するのでしょうか?
その理由は インピンジメント(衝突) にあります。

股関節がある一定の角度まで動くと、骨や軟部組織、人工関節の一部がぶつかり合い、それによって てこの原理 が働きます。このとき、脱臼しようとする力(脱臼力)が股関節を安定させる力(求心力)を上回ると、脱臼が生じるのです。

股関節を限界まで動かせば、必ずどこかでインピンジメントが起こります。したがって、 脱臼を100%防ぐことは論理的に不可能 であり、「絶対に脱臼しない人工股関節」というものはあり得ません。

通常時はインピンジメントは生じない 

インピンジメント(衝突)なし

屈曲時のインピンジメント 

寛骨臼前方と大腿骨のインピンジメント(衝突)

脱臼

前方の骨同士が支点となり求心力が脱臼力を上回ると脱臼する

なぜ原則「禁止肢位なし」の手術が可能なのか

それでは、なぜ私たちは 「禁止肢位なし」 の手術を行うことができるのでしょうか?

その答えは、 術中の徹底した脱臼テスト にあります。

股関節の可動域には個人差がありますが、多くの場合、屈曲120度・伸展20度程度 に収まります。可動域には限界があるということがポイントです。そこで、手術中に 全身麻酔下で入念な脱臼テストを行い、その患者さんにとって限界可動域での脱臼安定性を評価します。この確認を徹底することで、手術後に「禁止肢位はありません」と自信を持ってお伝えできるのです。

仰臥位 vs 側臥位:脱臼テストに適した体位とは?

人工股関節の手術には、仰臥位(仰向け)側臥位(横向き) があります。

以前は 側臥位 が主流でしたが、近年は 仰臥位 での手術も増えてきています。それぞれにメリット・デメリットがありますが、特に 脱臼テストを徹底的に行う という観点からは、側臥位が優れています。

側臥位のメリット
可動域の制限がないため、徹底的な脱臼テストが可能
✅ 手術中に 想定外の易脱臼性(脱臼しやすさ) を発見しやすい

側臥位のデメリット
⚠ 手術の手間が増える
⚠ 側臥位にした時に骨盤の角度がずれる
⚠ 麻酔のリスクがやや高まる

これらのデメリットはあるものの、安全性を最大限確保するために側臥位を採用 しています。

「禁止肢位なし」が可能になった背景

こうした手術が実現できるようになった背景には、以下のような 医療技術の進歩 があります。

🔹 アプローチの進化 → 侵襲が小さくなり、求心力を確保しやすくなった
🔹 クロスリンクポリエチレン(高架橋ポリエチレン)の開発 → 低摩耗インプラントの登場で、大きな骨頭を使用しやすくなった
🔹 ナビゲーションツールの発達 → 手術中にインプラントの角度を正確に把握できるようになった

これらはすべて、先人たちの研究と鍛錬の積み重ね による成果です。

まとめ

✅ 人工股関節において 絶対に脱臼しない ということはあり得ない
✅ しかし 術中の徹底した脱臼テスト により、脱臼安全性を評価できる
✅ 初回手術の場合ほぼ禁止肢位は不要 

手術を受けられる患者さんにとって、「どのように安全性が確保されているのか」を少しでも理解していただけたら嬉しいです。

今後も、より安全で負担の少ない人工股関節置換術を追求してまいります。

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