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人工関節置換術を誰にお願いするか

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人工関節置換術は「何件くらい経験している先生」にお願いするべき?

── 経験症例数と合併症・満足度のお話

こんにちは。副院長の渡部です。

変形性膝関節症・変形性股関節症でお悩みの方から、

「人工関節の手術って、どのくらい経験している先生にお願いすれば安心なんでしょうか?」
「手術件数が多いと、本当に合併症は少ないの?」

「人工関節の名医って誰?」

といったご質問をよくいただきます。

今回は、海外の大規模研究の結果から分かってきた、「経験症例数(年間の手術件数)と合併症・満足度の関係」についてご紹介します。
これから人工膝関節置換術・人工股関節置換術を検討されている方の、病院・医師選びの参考になれば幸いです。


1. なぜ「手術件数」が話題になるのか?

人工膝関節置換術(TKA)人工股関節置換術(THA)は、変形性関節症などに由来する関節の痛みをやわらげて元気な歩行や日常生活を取り戻すために、とても有効な手術です。

一方で、手術のリスクはゼロではありません。人工関節置換術で問題になるのは、たとえば次のような合併症です。

 脱臼(股関節で多い)

 感染(細菌が人工関節のまわりに入り込む)

 血栓(下肢の静脈に血の塊ができる)

 人工関節のゆるみや早期の再手術 など

「こうした合併症をどれだけ減らせるか?」、「手術にどれだけ満足できるか?」を左右する要素のひとつとして、
“執刀医がどれくらいその手術を経験しているか(1年間で何件くらい執刀しているか)”がどのくらい関与するかについて、世界で研究されてきました。


2. 股関節(THA)での執刀件数と合併症率の関係

人工股関節置換術(THA)について、カナダで行われた約3万8千例の大規模研究では、執刀医の年間手術件数と合併症の関係が詳しく調べられています。

その結果、

 年間35件以下しかTHAをしていない医師→ 脱臼や早期の再手術(再置換)がやや多い

 年間35件より多くTHAをしている医師→ 脱臼・再手術が少ない

という傾向が示されました。具体的には、股関節脱臼の割合が「35件以下:1.9%」「35件超:1.3%」といった差です。

また別の研究では、

年間6件未満しかTHAをしていない医師では、年間12件以上行っている医師に比べ、再手術になる危険が約1.2倍高い

という結果も報告されています。

もちろん、「6件だからダメ」「35件超なら絶対大丈夫」という白黒の話ではありませんが、
“年間の症例数が少ないと、統計的には合併症や再手術が増えやすい”ことが示されています。


3. 膝関節(TKA):年間執刀件数での違い

人工膝関節置換術でも、同じような結果が指摘されています。

米国の約29万件のTKAを解析した研究では、年間TKA執刀件数を、

  • 0〜12件/年

  • 13〜59件/年

  • 60〜145件/年

  • 146件以上/年

の4グループに分けて、90日以内の合併症や2年以内の再手術率を比較しました。

結果として、

 0〜12件/年の「ごく少数しかTKAをしていない医師」→ 合併症・再手術が多い

 60件以上/年→合併症や再手術率がぐっと下がり、その先は大きくは変わらない

という傾向が示されています。

つまり、イメージとしては、

「年間0〜12件のTKA」:経験がかなり少ない層 → リスク高め
「年間60件以上のTKA」:ある程度以上経験している層 → 成績が安定しやすい

と考えることができます。


4. 「病院全体の件数」も大切なポイント

どの先生が執刀するかだけでなく、「病院全体として、年間どれくらい人工関節の手術を行っているか」も重要です。

アメリカの大規模データを用いた研究では、病院を

 年間25件以下の「手術件数の少ない病院」

 年間200件超の「手術件数の多い病院」

などに分けて合併症を比較しています。

その結果、

人工股関節置換術(THA)・人工膝関節置換術(TKA)ともに、年間25~100件以下といった手術件数の少ない病院では、血栓症や1年以内の死亡リスクが手術件数の多い病院の約2倍になる

という報告がありました。

また、TKAだけを対象にした解析では、

病院のTKA件数が50件増えるごとに、3か月以内の死亡率が少しずつ下がる

という結果も示されており、国レベルでみると「人工関節手術をある程度以上の件数を行う病院に集約した方が安全性が高まりそうだ」と考えられています。


5. 経験症例数と「術後の満足度」

合併症だけでなく、「手術を受けて満足できたかどうか」も大事な視点です。

アメリカの人工股関節置換術(THA)患者さんを追跡した研究では、

 年間100件以上THAを行う病院と

 年間13件未満の病院を比較しています。

その結果、3年後の歩行能力などに大きな差は認められないものの、年間13件未満の病院で手術を受けた患者さんでは「手術結果に不満足」と感じる割合が高かったと報告されています。

これは、単に手術のテクニックだけでなく、

 術前の説明

 術後の痛みのコントロール

 リハビリテーション体制

 合併症が少ないかどうか

など、病院全体の「経験」と「チーム医療の仕組み」が満足度に影響していることを示唆しています。

当院では、黒坂院長が人工膝関節置換術や人工股関節置換術を、提携病院である慶友整形外科脊椎関節病院で行っております。


6. これらの数字をどう受け止めればよいか?

ここまでの海外研究をまとめると、目安としては次のようになります。

人工股関節置換術(THA)

 年間35件以下の医師では、脱臼や早期再手術がやや多い

 年間6件未満12件以上を比べると、6件未満の方が再手術リスクが高い

 前方アプローチ(DAA)では、年間30件以上行うことで合併症が抑えられているという報告もある

人工膝関節置換術(TKA)

 年間0〜12件しかTKAをしない医師では、合併症や再手術が多い

 60件以上で成績が安定してくる

病院全体

 年間25〜100件以下の低ボリューム病院では、血栓や死亡リスクが高め

 TKAでは、病院件数が増えるほど死亡率・再入院率が少しずつ低くなる

 年間13件未満の病院では、100件超の病院より、術後の満足度が低くなる傾向

もちろん、これはあくまで「統計上の傾向」であり、

「この件数を超えていれば絶対に安全」
「それ以下なら必ず危険」

という意味ではありません。
ただ、“人工関節手術を日常的に多数行っている医師・病院ほど、合併症が少なく、満足度も高い傾向がある”ことは、多くの研究で共通して示されています。

自己紹介ページでも記載させていただきましたが、私が以前非常勤医師としてお世話になっていた北水会記念病院で、黒坂院長が常勤医師として勤務されていた際、素早い手術であることはもちろんのこと、一件一件精度にこだわりながら執刀されていたことがとても印象的で、その経験に基づいて現在の精度の高い手術をされているのだと感じております。


7. 病院・医師を選ぶとき、どこを見ればよい?

実際には、「年間何件やっているか?」を数字で公表している施設は多くありません。
その代わり、次のようなポイントを参考にしてみてください。

 股関節・膝関節を専門に診ているクリニック・病院かどうか

 ホームページや説明で、THA・TKAについて詳しく情報発信しているか

 術前から術後リハビリまで、一貫したチームでフォローしているか

 症例紹介や患者さんの声をきちんと提示しているか

こうした点は、「股関節・膝関節の診療と人工関節手術をどれだけ中心に据えているか」の目安になります。


8. 当院の取り組み

当院は名前の通り、膝関節・股関節に特化したクリニックです。

 変形性膝関節症・変形性股関節症に対する保存療法

 人工膝関節置換術(TKA)・人工股関節置換術(THA)

 術前から術後まで一貫したリハビリテーション

といった一連の流れを、チームで丁寧にサポートする体制を整えています。

 

です。今回ご紹介したような「経験症例数」や「病院全体の体制」に関する情報も参考にしつつ、
納得のいく形で手術に臨んでいただけるよう、私たちも丁寧にご説明・ご相談を行ってまいります。

「自分の場合は人工関節置換術を受けた方がよいのか?」
「まだ保存療法で様子を見られるのか?」
手術をするとしたら、どんな流れになるのか?

といった疑問がありましたら、どうぞ遠慮なくご相談ください。

 

東京整形外科ひざ・こかんせつクリニックは、
ひざ・股関節でお困りの方が、再び自分らしい生活を取り戻すためのパートナーでありたいと考えています。

当院では、レントゲンだけで判断せず、丁寧な診察とリハビリ評価を通じて、痛みの根本にアプローチしています。
「原因がわからない」「どこに行っても改善しない」と感じている方も、どうぞ一度ご相談ください。

渡部直人 専門分野 膝・股関節・骨粗鬆症

日本整形外科学会専門医、日本骨粗鬆症学会認定医、医学博士

ひざや股関節が痛くて来院された方が診察と検査を通じて痛みの原因を特定し、正しい治療を経て痛くないひざ、股関節を取り戻す手助けをさせていただきたいと思っています。

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