股関節唇損傷とは?―「引っかかる」「違和感」の正体
股関節唇損傷とは?―「引っかかる」「違和感」の正体
こんにちは。副院長の渡部です。
「歩くと股関節が引っかかる感じがする」「立ち上がる瞬間に鼠径部が痛む」「長く座った後に違和感が出る」
このような症状を訴えて来院される方の中で、近年増えているのが股関節唇損傷です。
股関節唇(こかんせつしん)とは、骨盤側の受け皿(臼蓋)の縁を取り囲む線維軟骨で、
股関節の安定性を高めると同時に、関節内の圧を保ちスムーズな動きを支える役割を担っています。
この股関節唇が傷ついたり裂けたりすることで、痛みや引っかかり感が生じます。
股関節唇損傷でみられる主な症状
股関節唇損傷の症状は、画像所見の程度と必ずしも一致しない点が特徴です。代表的な症状には以下があります。
・ 鼠径部(足の付け根)の痛み
・ 股関節を動かした際の「引っかかり感」「クリック音」
・ 長時間歩行後やスポーツ後の痛み
・ 椅子からの立ち上がり、車の乗り降りでの違和感
・ 可動域制限や不安定感
特にレントゲンでは異常がないにも関わらず症状が持続する場合、股関節唇損傷が背景にあることが少なくありません。
診断の第一歩は「問診と身体診察」
診断で最も重要なのは、いつ・どの動きで・どこが痛むのかを丁寧に確認することです。
股関節唇損傷では、FADIRテストやFABERテストなどの徒手検査で鼠径部痛が再現されることがあります。
ただし、これらのテストは特異度が高いわけではなく、
「陽性=必ず唇損傷」とは言えないため、次のステップとして画像検査が必要になります。
画像検査:MRIが重要な役割を担います
股関節唇は軟部組織であるため、MRI検査が診断の中心となります。
特に3テスラMRIや関節唇に着目した撮像条件では、前方〜前上方の唇損傷を比較的高い精度で描出できます。
一方で注意すべき点として、症状のない方でもMRI上は唇損傷が見つかることがあることが報告されています
つまり、
👉 「画像に写っている=痛みの原因」とは限らない
という点が、股関節唇損傷診療の難しさでもあります。
診断の決め手となる「ブロック注射」
そこで重要になるのが、関節内ブロック注射です。
局所麻酔薬を股関節内に注入し、
・ 注射後に痛みが明らかに軽減する
・ 動作時痛が消失する
といった反応が得られた場合、
レントゲンで異常がなくても痛みの主な発生源が股関節内(唇・軟骨)にあると判断できます。
この考え方は、股関節唇損傷やFAI(大腿骨寛骨臼インピンジメント)の診断において広く用いられており、診断的注射の有用性は複数の研究で支持されています。
当院では、画像・身体所見・ブロック注射の反応を総合的に評価し、安易に「手術ありき」とならない診療を心がけています。大部分の股関節唇損傷は投薬、理学療法、関節内注射などの保存治療で改善します。
まとめ:股関節唇損傷は「総合判断」が大切です
股関節唇損傷は、
・ 症状が説明しづらい
・ 画像所見と痛みが一致しないことがある
という特徴を持つ疾患です。
だからこそ、丁寧な問診 → 身体診察 → MRI → 必要に応じたブロック注射という段階的な診断プロセスが重要です。
・ 「レントゲン(やMRI)で異常がないと言われたけれど股関節の痛みが続く」
・ 「原因がはっきりしない股関節の違和感がある」
そのような方は、一度専門的な視点での評価を受けてみることをおすすめします。
参考文献
1. Smith TO et al. The diagnostic accuracy of MRI for acetabular labral tears. Arthroscopy. 2011.
2. Byrd JWT. Evaluation and management of hip pain in young adults. Am J Sports Med. 2004.
3. Narvani AA et al. Acetabular labrum and its tears. J Bone Joint Surg Br. 2003.
東京整形外科ひざ・こかんせつクリニックは、
ひざ・股関節でお困りの方が、再び自分らしい生活を取り戻すためのパートナーでありたいと考えています。
当院では、レントゲンだけで判断せず、丁寧な診察とリハビリ評価を通じて、痛みの根本にアプローチしています。
「原因がわからない」「どこに行っても改善しない」と感じている方も、どうぞ一度ご相談ください。
渡部直人 専門分野 膝・股関節・骨粗鬆症

日本整形外科学会専門医、日本骨粗鬆症学会認定医、医学博士
ひざや股関節が痛くて来院された方が診察と検査を通じて痛みの原因を特定し、正しい治療を経て痛くないひざ、股関節を取り戻す手助けをさせていただきたいと思っています。