股関節唇損傷の位置と症状の関係
今回key point
90%以上が前方領域に損傷が集中している |
鼠径部痛は前方股関節唇損傷・臀部痛は後方股関節唇損傷が示唆される |
【股関節の痛みは“傷の場所”で変わる?】関節唇の損傷と症状の深い関係
「股関節のつけ根が痛い」「お尻がズキズキする」「動かすと引っかかる感じがある」——そんな股関節の違和感、実は“股関節唇(こかんせつしん)”が傷ついていることが原因かもしれません。
最近ではスポーツをしている若い人から中高年の方まで、幅広い年齢層でこの部分の損傷が見つかるようになってきました。
この股関節唇がどの位置で傷ついたかによって、痛みの場所や症状が変わってきます。
股関節唇ってどんな場所?
股関節は「ボールと受け皿」のような構造をしており、ももの骨(大腿骨)の先端が骨盤側のくぼみ(臼蓋=きゅうがい)にはまることで、体を支えています。
この“受け皿”のフチをぐるりと囲んでいるのが「股関節唇」です。クッションのような軟骨でできており、以下のような大事な役割を持っています
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関節をしっかり安定させる
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衝撃を吸収して守る
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潤滑液を保ち、関節の動きをなめらかにする
この股関節唇が何らかの理由で傷つくと、痛みや引っかかり感、動かしづらさなどが起こります。
当院HPより引用
「どこが傷ついたか」で症状が変わる?
股関節唇の傷は、関節を囲む位置によって5つに分類されます
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前方
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前上方
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上方
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後上方
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後下方
このうち特に多いのが、「前方」や「前上方」の傷です。股関節唇損傷の約90%が前側に集中しているという報告もあります。
逆に、「正座」や「あぐら」「しゃがみ動作」などの生活習慣の影響で、お尻側(後方)の損傷も見られることがあります。
前側が傷ついた場合の症状
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足のつけ根(そけい部)にズキズキするような痛み
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長く座っていると痛くなる
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起き上がる時や立ち上がり動作で痛みが出る
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股関節の中で「コキッ」「ガクッ」と音がすることも
このような症状が出ている人は、前側の股関節唇が傷ついている可能性が高いです。
後ろ側が傷ついた場合の症状
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お尻の奥が痛む
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階段の下りやしゃがみ込みでズキッとする
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前かがみや長時間の立ち仕事がつらい
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横になってもお尻がうずくような痛みがある
特に、正座やしゃがむ姿勢が多い人に見られる傾向があります。
骨の“形状”が損傷の位置に関係?
股関節唇がどこで傷つくかに、“骨の形状”が関係していることがわかってきています。
大腿骨の形に特徴がある人ほど、股関節唇の「前上方」や「後方」が傷つきやすいです。
「骨の出っぱり」がカギになる? α角とは
「α角(アルファかく)」とは、ももの骨の“首の部分”にどれだけ丸みがあるかを測る角度で、α角が大きい=骨の形が丸くなく、出っぱっているということになります。
この「出っぱり」があると、股関節を曲げたり回したりする動きの中で、股関節唇が骨にぶつかってしまい、繰り返しの衝撃で傷ついてしまうのです。
α角が57度を超えると、
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股関節唇の「後方」や「前上方」に傷ができやすい
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特に45〜60歳の人でその傾向が強い
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傷のサイズも大きくなりやすい
という報告もあります。
まとめ:痛みの場所で“傷の位置”がわかるかも?
股関節唇損傷では、その「どこが傷ついているか」によって、感じる痛みの場所が変わってくることがわかっています。
損傷部位 | 主な痛みの場所 | よくある原因や特徴 |
---|---|---|
前・前上方 | 足のつけ根の痛み | 骨の形の問題(FAI)、長時間座位など |
後上方 | お尻の奥の痛み | 骨の出っぱり(α角増大)、しゃがみ動作、加齢など |
適切な検査と治療のすすめ
股関節唇損傷は、レントゲンだけでは見つかりにくく、MRIの検査が必要になります。
「どこが傷んでいるか」を正確に知ることで、
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保存療法(リハビリや注射)でいけるか?
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手術が必要か?
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骨の形を直す処置も必要か?
といった判断につながり、将来の関節のすり減り(変形性股関節症)を防ぐことにもつながります。
おわりに
「足のつけ根が痛む」「お尻がズキズキする」「動かすと引っかかる感じがある」——そんな違和感のある方は、股関節唇損傷が関係しているかもしれません。
そして、その“傷の場所”によって、症状も治療法も変わってきます。
是非、当院への受診していただき、正確な診断と治療を受けることをおすすめします。
当院医師の齋藤先生の股関節唇損傷と股関節鏡手術の記事も是非ご覧ください。
参考文献
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Groh MM, Herrera J. A comprehensive review of hip labral tears. Curr Rev Musculoskelet Med. 2009.
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Su T, Chen GX, Yang L. Diagnosis and treatment of labral tear. Chinese Medical Journal. 2019.
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Lin HY et al. The correlation between hip alpha angle and acetabular labral tear location and size. J Chin Med Assoc. 2024.