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肥満と膝の痛みの関係性 〜なぜ体重が膝を壊すのか?〜

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今回のkey point

肥満の方は膝の軟骨の損傷摩耗(軟骨欠損)が進みやすい 

肥満に伴う全身性の慢性炎症が変形性膝関節症の発症・進行に深く関与する

肥満と膝の痛みの関係性 〜なぜ体重が膝を壊すのか?〜

はじめに

中高年になると膝の痛みに悩む人は少なくありません。その多くの原因は変形性膝関節症です。
膝関節は全身の関節の中でも特に変形性関節症(OA)になりやすい部位であり 、加齢や遺伝など様々な要因が関係しますが、中でも肥満(体重の過剰)は主要な危険因子の一つとして知られています。
本記事では、肥満と膝の痛み(変形性膝関節症)の関係に焦点を当て、なぜ体重が膝関節に大きなストレスを与えて軟骨を傷めてしまうのか、そのメカニズムと予防策についてわかりやすく解説します。

体重増加が膝関節に与える負荷

肥満の方は膝の軟骨の損傷摩耗(軟骨欠損)が進みやすいことがわかってきています。
さらに膝関節の構造上、体重の影響が特に強く出ることもわかってきています。
膝は股関節のような球状の関節ではなく前後に曲がる関節のため、安定性を周囲の靱帯や筋肉に大きく依存しています。
その分、過剰な荷重がかかると膝関節は不安定になりやすく、同じ体重増加でも股関節より膝に与える影響の方が大きくなります。
さらに、肥満の人は自然と脚を開き気味(いわゆるO脚方向)になりやすく、この姿勢では膝関節の内側に荷重が集中し、内側の軟骨が偏ってすり減る原因となります。
加えて、肥満では筋肉内にも脂肪が蓄積しやすく筋力が相対的に低下するため、膝を支える太ももの筋力が不足しがちになります。
これら複合的な要因により、体重過多は膝関節の構造破壊(軟骨の磨耗や骨の変形)を加速させ、痛みを引き起こしやすいのです。

肥満が引き起こす慢性炎症と関節への影響

肥満が膝に与える悪影響は何も物理的な荷重増加だけに留まりません。
肥満に伴う全身性の慢性炎症(いわゆるメタボリックシンドロームに見られる持続的な低度炎症)が変形性膝関節症の発症・進行に深く関与することが明らかになってきています。
脂肪組織は単なるエネルギー貯蔵庫ではなく、多様な生理活性物質を分泌します。
肥満の状態では脂肪組織から炎症性の物質が過剰に放出され、全身に軽い炎症反応をもたらすとともに、軟骨を分解する酵素の産生を促進して関節を徐々に傷めていくと言われています。
過剰な体重そのものが関節に微小な炎症を起こすことに加え、脂肪細胞から放出される物質が関節内に「炎症環境」を形成し、軟骨や骨、滑膜などをゆっくりと劣化させます。
肥満は「膝への過重負荷」「体内の慢性炎症」という二重のメカニズムで関節を痛めてしまいます。

肥満はどれだけ膝のリスクを高めるか?

肥満の人は変形性膝関節症になるリスクが非常に高くなります。
BMI(体格指数)が5kg/m2増えるごとに膝OA発症リスクが約35%上昇すると言われています。
要するに体重が増えれば増えるほど膝が壊れる危険が高まるということです。
こうした事実から、肥満は変形性膝関節症の危険因子であると言われています。
肥満は変形性膝関節症を起こしやすくするだけでなく、発症後の関節破壊の進行スピードや症状の悪化にも影響します。
実際、肥満の変形性膝関節症患者は、正常体重の方に比べて軟骨の摩耗進行が早く、関節変形が深刻化しやすくなります。
その結果、痛みが強く日常生活に支障をきたすようになり、人工膝関節置換術(人工関節への置き換え手術)を必要とするケースも、肥満患者の方が多くなる傾向があります。
変形性膝関節症患者では体重を1%減らすごとに将来的な人工膝関節置換術のリスクが約2%ずつ低下すると言われており、体重が増えるほど将来手術が必要になる可能性が高まるということになります。
変形性膝関節症の進行抑制という点からも、適切な体重管理が極めて重要です。

予防と対策

膝の健康を維持する上で、体重管理は何より重要なポイントです。
肥満は膝OAの危険因子ですが裏を返せば自分で是正しうる要因でもあり、適正体重の維持によって膝OAのリスクを大きく減らすことができます。
変形性膝関節症の予防と治療において運動療法減量(体重管理)が強く推奨されています。
体重の5%程度を減らすだけでも膝の痛みが目に見えて改善することが分かっており、さらに10%以上の減量が達成できれば症状や機能の一層の改善が期待できます。
以下に、膝を守るための体重管理のポイントをまとめます。
適正体重の目標設定:
ご自身の身長に応じた適正体重(BMIで言えば25未満が目安)を目標に定めましょう。まずは現在の体重から5〜10%減を目標にすると無理なく取り組めます。
バランスの良い食事:
野菜や果物、良質なたんぱく質を中心に、総摂取カロリーを抑えたバランスの良い食生活を心がけます。糖分や脂肪分の多い飲料・加工食品を控えることも効果的です。
膝にやさしい運動習慣:
関節に負担をかけにくい有酸素運動(例: 水中ウォーキングやエアロバイク)を週数回行いましょう。また、大腿四頭筋など太ももの筋力を鍛えると膝関節の安定性が増し、痛みの軽減につながります。
継続と専門家のサポート:
体重管理は継続が何より大切です。一時的に激しいダイエットをするより、無理のない範囲で生活習慣を見直し、それを長く続けることが成功の鍵です。必要であれば医師の指導やサポートプログラムを活用し、途中で挫折しない工夫をしましょう。

まとめ

肥満による膝への悪影響は、過剰な荷重と慢性的な炎症という二方面から関節を蝕む点にあります。そのため体重を適正にコントロールすることが、将来の膝の痛みや変形を予防する最も効果的な方法の一つです。幸い、体重は自分の努力で変えられる要素でもあります。日々の小さな積み重ね(食事と運動の工夫)が数年後、数十年後の膝の健康につながります。膝に不安を感じている方は、できる範囲での体重管理からぜひ始めてみてください。膝はあなたの体を一生支えてくれる大切な関節です。少し体重を減らすだけでも、膝への負担は確実に軽減されます 。今日からできる範囲で、膝にやさしい生活を心がけてみましょう。

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