FAIと股関節唇損傷の関連性
今回のkey point
FAIの9割に股関節唇損傷が存在する |
FAIによる軟骨損傷は股関節の“ふち”から中に向かってめくれて損傷することが多い |
股関節が痛い?それ、FAI(インピンジメント)と関節のすり減りが原因かもしれません
はじめに
「歩いていると、股関節の前の方が痛む…」「階段の上り下りでひっかかる感じがする…」
そんな症状がある方は、「FAI」という病態が関係しているかもしれません。FAIとは、大腿骨(太ももの骨)と骨盤の骨がぶつかりやすい形になっていて、股関節に負担がかかりやすい状態のことをいいます。
このFAIがあると、関節のクッションの役割をしている“股関節唇”や軟骨が傷ついてしまい、股関節の痛みや、将来の変形につながることがあるのです。
今回は、このFAIと股関節の「すり減り」との関係について、最新の研究をもとにわかりやすくご紹介します。
FAIってなに?
FAIは「大腿骨寛骨臼インピンジメント」の略で、骨盤のくぼみ(寛骨臼)と太ももの骨(大腿骨)のかみ合わせがうまくいかず、骨どうしがぶつかってしまう状態です。
FAIには大きく2種類あります。
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Cam型(カム型):太ももの骨の形がいびつで、股関節のふちにぶつかる。
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Pincer型(ピンサー型):骨盤側のかぶさりが多すぎて、骨がぶつかりやすい。
この骨のぶつかりが続くと、股関節の中のクッションのような存在である「股関節唇」や「軟骨」が少しずつ傷ついてしまいます。
股関節唇ってどんなもの?
股関節唇は、股関節の中の「パッキン」や「吸盤」のような役割をしています。骨の間にフィットして、股関節が安定して動くように助けてくれています。
でも、この股関節唇が傷ついてしまうと…
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歩くときに痛む
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立ち上がるときに“コリッ”と音がする
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股関節がひっかかる、抜けるような感じがする
などの症状が出るようになります。
FAIがある人では、9割以上の方に股関節唇の損傷があるという報告もあり、とても密接な関係があることが分かっています。
「軟骨のめくれ方」にも違いがある?
2023年に発表されたある研究では、FAIや股関節の発育不良(「臼蓋形成不全」と呼ばれます)に伴う軟骨の“めくれ方”に注目しました。
手術中の映像をもとに、股関節の軟骨がどちらからはがれているのかを調べたところ、めくれ方のパターンに違いがあったのです。
パターンは2つ:
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outside-in型(外から内へ):股関節の“ふち”から中に向かってめくれる。
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inside-out型(中から外へ):股関節の中央から外に向かってはがれる。
グループ | outside-in型(外→中) | inside-out型(中→外) |
---|---|---|
FAIがある人 | 78% | 10% |
骨盤が浅い人(形成不全) | 12% | 72% |
つまり、FAIの人では「ふち」から壊れていくことが多く、骨のぶつかりが原因であることが分かりました。
逆に、骨盤のかぶさりが少ない人(形成不全)では、関節の中が不安定なせいで「中」から壊れていくという傾向があるようです。
この“めくれ方の違い”を手術中に確認することで、病気のタイプを見分けたり、今後の治療方針を立てたりするヒントになるのです。
どんな治療があるの?
FAIや股関節唇の損傷がある場合、治療は症状の強さや年齢、生活スタイルによって変わってきます。
① 保存療法(手術をしない方法)
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安静、運動の制限
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薬(痛み止めや炎症止め)
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リハビリ
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関節の中に注射(ステロイドなど)
軽い症状なら、これだけでよくなることもあります。
② 手術療法(股関節鏡)
症状が強かったり、リハビリで改善しない場合は、関節鏡という小さなカメラを使った手術を行います。
内容としては:
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骨のぶつかる部分をけずる(Camを調整)
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傷ついた股関節唇を縫って修復
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どうしても修復できない場合は人工の材料で再建する
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軟骨の修復(削ったり、再生を促す処置)
手術で股関節唇を“切り取る”よりも、“縫って残す”方が、将来的に関節が長持ちするという研究結果も出ています。たとえば、10年後に人工関節にならずに済んだ人の割合は、
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修復した人…78%
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切り取った人…46%
と大きな差がありました。
まとめ
FAIという病気は、「骨の形」によって関節がぶつかりやすくなり、股関節唇や軟骨が傷つく病気です。放っておくと、将来的に変形性股関節症になってしまうリスクもあります。
今回ご紹介した最新の研究では、
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FAIの人は「外から内に」関節が壊れていく
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骨盤が浅い人は「中から外に」壊れる
という病態の違いがわかってきました。
その人の骨の形や、関節の壊れ方をしっかり見きわめて、一人ひとりに合った治療を選ぶことが大切です。
「股関節が痛い」「動きに引っかかりがある」など、気になる症状がある方は、ぜひ当院と股関節専門外来を受診してください。早めの診断と治療で、将来の股関節を守ることができます。
当院医師の齋藤先生監修のFAIの概要・股関節唇損傷の概要・股関節鏡手術についての記事も是非ご覧ください。
参考文献
・Buzin S, Shankar D, Vasavada K, Youm T. Hip Arthroscopy for Femoroacetabular Impingement-Associated Labral Tears: Current Status and Future Prospects. Orthop Res Rev. 2022 Apr 21;14:121-132.
・Savoye-Laurens T, Verdier N, Wettstein M, Baulot E, Gédouin JE, Martz P. Labral tears in hip dysplasia and femoroacetabular impingement: A systematic review. Orthop Traumatol Surg Res. 2023 Jun;109(4):103539.
・Su T, Chen GX, Yang L. Diagnosis and treatment of labral tear. Chin Med J (Engl). 2019 Jan 20;132(2):211-219.
・Kraeutler MJ, Goodrich JA, Fioravanti MJ, Garabekyan T, Mei-Dan O. The "Outside-In" Lesion of Hip Impingement and the "Inside-Out" Lesion of Hip Dysplasia: Two Distinct Patterns of Acetabular Chondral Injury. Am J Sports Med. 2019 Oct;47(12):2978-2984.