FAIの身体所見評価
今回のkey point
FAIの身体所見診断は歩行評価・関節の角度評価・特徴的なテストによって評価されます。 |
身体所見評価と画像診断を併用して診断することが有用です。 |
股関節の痛み、もしかして「FAI」かも?~身体所見で分かるインピンジメントのサイン~
はじめに
「歩くと股関節が痛い」「長く座っていると脚の付け根がだるい」「スポーツのときに引っかかる感じがする」――そんな症状がある方は、もしかするとFAI(大腿骨寛骨臼インピンジメント)という股関節の異常が隠れているかもしれません。
このブログでは、FAIとは何か、どんな症状があるのか、そして病院でどのような身体所見(診察)で診断されるのかを、わかりやすくご紹介します。
FAIとは?股関節のぶつかり現象
FAIは「Femoroacetabular Impingement」の略で、股関節内で骨同士が異常にぶつかってしまう状態を指します。股関節は、骨盤側の「寛骨臼(かんこつきゅう)」と、大腿骨側の「大腿骨頭」がはまり込むような構造になっています。
ところが以下のような骨形態の異常があると、通常の動作で関節がこすれ合い、痛みや損傷を引き起こします。
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カム型(cam deformity):大腿骨頭が球形でなく、首の部分が出っ張っている
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ピンサー型(pincer deformity):寛骨臼が深くなりすぎていて、大腿骨頭を過剰に覆っている
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混合型:両方の要素があるケース
これらが原因で、股関節の関節軟骨や関節唇が傷つき、やがて変形性股関節症につながることもあります。
どんな症状が出るの?
FAIの代表的な症状には以下があります:
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鼠径部(股の付け根)の痛み
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運動後の重だるさ
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深く腰をかがめると痛い
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椅子から立ち上がるときの違和感
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股関節のクリック音(引っかかる感じ)
特にサッカーやダンス、ゴルフなど股関節をよく使うスポーツ愛好者に多く見られます。
診察でわかるFAIのサイン
FAIの診断では、レントゲンやMRIといった画像検査も大事ですが、実は身体所見(医師による診察)こそが最初の鍵になります。
以下に主な診察方法を紹介します。
1. 見た目・歩き方の観察
まず患者さんの姿勢や歩き方(歩容)を観察します。
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トレンデレンブルグ歩行:歩行時に骨盤が左右に揺れて不安定に見える歩き方のことをいいます。股関節周囲の筋力が落ちていると、骨盤が安定させられないため生じます。
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跛行(はこう):痛みを避けるために足を引きずって歩く状態です。
2. 関節角度のチェック
FAIの方は、特に股関節を内側に捻じる動き(内旋)が制限されていることが多いです。
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内旋可動域が10度未満だと、FAIを強く疑います。
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股関節の屈曲(脚をお腹側に引き寄せる動き)や外旋(股関節を外側に捻じる動き)もあわせて確認します。
3. FADIRテスト
これはFAI診断の代表的なテストです。
仰向けで脚を曲げた状態で、
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股関節を内側に回しながら内側に倒していく
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この動作で鼠径部に痛みが出れば陽性
FADIRはFAI患者の80〜100%が陽性になると報告されています。
4. FABERテスト(パトリックテスト)
股関節を「4の字」にして膝を外側に開き、痛みが出るか確認します。
このテストはFAIと他の疾患の鑑別にも役立ちます。
5. スクワットテスト(片足・両足)
FAIのある方は、しゃがんだときに股関節の動きが不自然だったり、速度が遅かったりします。
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両足スクワットで膝が内側に入る(ニーイン)と、動作制限のサインです。
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片足スクワットでは左右差をみるのがポイントです。
身体診察で分かること、限界もあること
これらの診察は非常に有用ですが、FAIの確定診断には画像検査(X線やMRI)も欠かせません。ただ、初診時の診察でこれらの身体所見がしっかり評価されれば、早期に適切な検査や治療へつなげることができます。
また、身体診察では股関節以外の問題(腰椎や骨盤、筋肉の異常)も見つかることがあるため、総合的な評価が重要です。
まとめ
FAIは若年〜中年層の活動的な方に多く、見逃されやすい股関節疾患の一つです。しかし、適切な診察によって早期に発見・対処すれば、手術を避けられる可能性もあります。
「最近、股関節の動きが悪い」「運動中に痛みが出る」などの症状があれば、当院の診察を受診してみてください。
当院医師の齋藤先生監修のFAIの概要・股関節鏡手術の記事も是非ご覧ください。
参考文献
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Thomas G.ER et al. Diagnosis and management of femoroacetabular impingement, Br J Gen Pract. 2013
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Wong SE, Cogan CJ, Zhang AL. Physical Examination of the Hip: Assessment of Femoroacetabular Impingement, Curr Rev Musculoskelet Med. 2022